君に、ありったけの花束を。

昨日、いや、日付的には今日だけど、眠りに落ちる前、ふと思った。

田口くん、今頃泣いてないかなって。

何の前触れもなく思った。

私は考えたことを文字にして吐き出してしまえば、その分心が軽くなる、よくわからない体質で、最初の混乱も、あの日の動揺していた三人を心配する気持ちも、昨日のブログに吐き出したから、やっと少し、思考が落ち着いて。

やっと、田口くんのことを、そこで初めて、ちゃんと考えることが出来た気がした。

そうしたら、初めに浮かんだことは、田口くん、今頃泣いてないかなって、ちゃんとご飯食べてるかなって。自分で、そういう彼の身を案じる思考に、今の今までならなかったことに、びっくりした。

 

たくさんの人が驚いて、なんでってうわ言の様に繰り返しているのを見た。

たくさん怒っている人がいた。

彼を最低な裏切り者と表現する人もいた。

彼が脱退を決めるほどのこととは、それはよっぽどのことで、お昼のワイドショーのいろいろを受けて、そんなふうに彼を追いつめたのかもしれない、三人のことを責めるような声もあった。

どれも、わかる、気がする。だけど。

どれも、ちがう、気もした。

 

私は、田口くんに裏切られたなんて、ちっとも思えない。

彼がすっきりした顔をしていたなんて、ちっとも思えない。

ただ今は、あの時、あの場で、田口くんがどんな気持ちで、前を向いて立っていたのか、想像するだけで眩暈がする。

だって、怖かったはずだ。

目の前で、誰かの顔から光が消えるのを、見なければならないなんて。

誰かの心が壊れる音を、聴かなければならないなんて。

争いごとを嫌う彼が、いつだって笑っていた彼が、KAT‐TUNを愛していた彼が、アイドルであることを誇りに思っていたはずの彼が、優しく、気高く、人を幸せにする才能に溢れていた彼が、そんな光景を目の当たりにして、傷つかないはずがない。傷つかないはずがないじゃないか。

それでも彼は、決めたのだ。一人でも行くと、決めたのだ。

怖いだろう。私だったら、怖くて堪らなくて、逃げ出してしまう。あんな場所で、取り返しのつかない生放送で、カメラの向こうに何百万という人がいる前で、絶対にたくさんの人を傷つけて泣かせてしまう自分の言葉を届けるなんて、怖すぎて、勘弁してくださいと懇願するだろう。やろうと思えば、あとから送られてきたメールのように、文字だけでもよかったはずだ。遠い場所から、出来るだけ自分が傷つかない方法で、辞めることを伝えるのは、選ぼうと思えば出来たはずだ。でも彼はそれをしなかった。彼の中の誠実さが、そうさせなかったのだろう。彼はびっくりするくらい誠実で、正直で、でもそれが故、苦しくなってしまったのかもしれないと思った。

 

嵐の大野さんが言っていた。10周年を迎える前、嵐を辞めようと思っていたと。

そんな気持ちでアイドルを続けていることが、メンバーにもファンにも申し訳なく思えたと。

田口君は、KAT‐TUNが大好きな田口君は、自分の気持ちを100%KAT‐TUNに向けられないことが、苦しかったのかもしれないと思った。

そんな生半可な気持ちでアイドルを続けることを、彼の誠実さが、彼の優しさが、KAT‐TUNを想う強い気持ちが、許さなかったのかもしれないと思った。

そうやって悩んでいることすら、ファンに言えないこと自体が、一番、正直でありたい彼には耐え難かったのかもしれないと思った。

もしあの場で、脱退を告白した彼が、仮にすっきりしたように見えたのだとしたら、それは過去との決別に心が晴れたという類ではなく、やっとファンに本当の気持ちを話すことが出来た、という安堵だったんじゃないのか、とさえ思う。

 

きっと、限界だったのだ。

わたしたちは、田口君がわたしたちを置いて行ってしまうと、取り乱したけれど。

見方を変えれば、もしかしたら本当は、先に進んで行くのは、三人と私たちの方で、一人で置いて行かれるのは、田口くんの方なんじゃないかと思うのだ。

本当は、ものすごい速さで走っていくKAT‐TUNという偶像に追いつこうと、あの長い手足で懸命に食らいついて、走り続けてきたのは田口くんの方だったんじゃないかって。

走って、走って、置いて行かないでって、でも、もう走れないよって。それが、脱退っていう結末だとしたら、私は、もう一度一緒に走ってよ、なんて言えない。

それは進み続ける三人が悪いとか、走るのを止めてしまった田口君が悪いとか、そういう話じゃない。誰も悪くない。何が間違っていたのかわからない。何が正解だったかもわからない。だから苦しい。だから悲しい。気持ちの持っていきようがない。ただ、田口君のことが好きだという気持ちだけが、消えずにずっと胸の中にある。

この夏に、相葉さんから伊野尾ちゃんに担降りした時から、ずっと思っていた。

アイドルを置いて行くのは、本当はいつも、私の方なのかもしれないって。

ステージの上から降りて来られない彼らには、それを止める術がない。

ステージの向こうを覗けない私には、本当の事なんて、何一つ分からない。

私が、届かないと嘆くように、彼らも、歩けないと立ち竦む時があるのかな。

 

脱退のもたらす痛みを知っている田口くんだから、逃げないことを選んだのかもしれないと思った。どれだけ非難されても、そうされて当然のことをしているという自覚が、きっと彼にはある。だから彼は逃げない。自分の罪には罰が必要だとさえ、思っていそうじゃないか。

どんな言い訳も、涙も、あの場の彼には何一つ許されていなかった。何一つ許していなかった。たぶん、他ならぬ、彼自身が。完璧にアイドルであろうとする彼のプライドが。彼をただ毅然とそこに立たせていた。それが彼の誠実さだ。彼の完璧な歌と踊りこそ、彼の示してくれた最大級の愛情の証のように思えた。

笑うしかなかっただろう。なんで笑っていられるのって、アイドルがステージの上で許されているたった一つ、振りかざしていい武器は、笑顔だからだ。

 

ジャニウェブを見た。君からの言葉を読んだ。涙が零れた。どうしようもなく、泣くしかなかった。

今まで、同じ場所を守るためにやってきた仲間。何万人というファン。たくさんの事務所のスタッフに守られて生きてきた、そんな場所から、その全部を置いて、たった一人で何もない世界に歩きだすなんて、それはどれだけ怖いだろう? 心細いだろう?

それなのに、こんな時ですら、君は残していく三人の未来の方を、私たちに託す。君の優しさが痛い。そうして一人になる君はどうなるの。お願いだから、残された時間も、その先もずっと、わたしに貴方のことを心配させてよ。応援させてよ。

 

田口くん。いま君に花束を贈りたいんだ。

田口くんが、一人で行くことを決めた世界が、少しでも怖くなくなるように。

田口くんの世界が、少しでも優しくあるように。

残された時間の中で、君にたくさんの花束を。

ありったけの大好きを掻き集めて。

ありったけのありがとうを束ねて。

その大きな腕でも抱えきれないほどの花束を、君に。