踊る、かみさまの子供たち

歓声が弾けるソーダ水の底にある、泡沫のお城で、神様の子供たちはみな踊る。


初めてJr.の現場に足を運んだ。
六本木EXシアターまでの道にも、そして当の建物の二階広場にも、若くて可愛い子がひしめき合っていた。
幸いなことに曇天の空。刺すような陽射しこそないものの、こもる熱と湿度でじっとりと汗をかきながら入場を待つ。ぞろぞろと並んで歩きながら地下へ降りていく様は、まるで連行される囚人のようだった。
がらんとしたスタンディングのフロア。前列のセンターあたりでその時をじっと待ちながら、天井でくるくる回るミラーボールを眺めていた。
会場がどんどん埋まっていく。押し殺した囁き声が増えていく。

どんなふうに見えるんだろう。ふと、そんなことを思った。
この1メートルもない距離の向こうにある舞台のその場所から、私たちはどう見えるんだろうか。
自分に割り振られた色を灯す、無数のペンライト。どの瞬間も決して見逃すまいときらきら光る眼差し。吹きつけるような歓声が呼ぶ名前。
どんな気持ちで、それらを受け止めているんだろうか。普通とは少し違う世界と世界の狭間にいる、大人でも子供でもない男の子たち。自分の笑顔一つ、歌声一つ、指の動き一つで、たくさんのきらきらした女の子たちがわっと声を上げる。それをどう思ってるのだろうか。どんなふうに感じてるのだろうか。

怖く、ないのだろうか。

何が起きても、逃げ場所のない、全てが眩いライトの下、曝け出されてしまうその場所に、どうして立ち続けてくれるのだろうか。
私だったら、訳が分からなくなって、きっと逃げ出したくなるに違いないのに。
学生を卒業した子も、そうではない子も、世間の同い年の子たちは今この瞬間にも、夏を謳歌して遊んでいるというのに。
宝石のように青い海も、目がいたくなるような蒼穹も見えない地下室で、朝から晩まで、汗だくで踊る。
この世界は、この景色は、この小さな箱庭は、君たちにはどう見えているんだろう。どんな意味が、価値が、あるんだろう。

どこにも記録映像として残ることのない、ここに集った人達だけが共有出来る、秘め事のようなコンサート。
水の底に沈んだみたいに、酸素が足りない気がした。ステージの上に、圧倒的な輝きと熱と空気が渦巻いていた。
舞台の上の子たちは、どの子も私には眩しくて、可愛くて、かっこよくて、誰もが誰かの王子様で魔法使いだった。
けれど、美しければ美しいほど、夢のようであればあるほど、この子たちが、誰一人欠けることなく、次の季節も、この場所に立ち続ける保証はないという現実が脳裏を掠めた。
去年の夏、ドラムを叩いていたあの子は、元気にしているのだろうか。いつも現実は、誰も予想しない答えを提示してくる。

どうか、芸に生きるその世界を、愛してほしいと思った。
この世界に、愛されてほしいと思った。
目に見えない強い引力が、この子達をここに、この明るい場所に、繋ぎとめてくれますようにと、身勝手にも願った。
この子たちが明日からも、ここで笑って、少しだけ泣いて、それでも夢を見て、歯を食いしばっても、前を向いて、この場所に、ステージの上に、立っていて欲しいと思った。
もしも今、あの箱庭に、何の意味も価値も見出せなかったとしても、いつか振り返る日に、今日の日が、ほんの少しでいい、何かの意味を持ってくれればいいと思った。彼らが奮い起つ糧になればいいと思った。意味を持つようになる、その日まで、そこにいて。


いつか、泡沫ではない、自分たちの国の名前を掲げた舞踏会を開く日が、彼らに等しく訪れますように。彼らが彼らだけのお城を持てますように。
その時が来たら、ドレスを新調して、きっとまた駆けつけさせてほしい。

この暑い夏の日々に、確かに意味はあったねと、いつか彼らが笑い合う日を夢見ながら帰りの飛行機に乗った。
夏が、少しずつ遠ざかっていく。その足音を聞いていた。