Defiledの戸塚くん【福岡公演 5/19.20】

A.B.C-Zの戸塚君が、舞台「Defiled」をやるよっていうお知らせがメールで届いたのは今年に入ってすぐだった。

勝村政信さんとの二人芝居で、しかも福岡でもやるという。遠征せずに見られる現場、本当にありがとう。申し込んで、当選して、チケットが届いて、やれなうぇすとだSHOCKだSTAGEコンだと忙しくしていたら、その日はあっという間にやってきた。

戸塚君は図書館に爆弾を仕掛けて立てこもる犯人役、そして勝村さんはそれを説得に来た刑事役。それ以上のネタバレも何も自分に入れることなく(というかその暇がなかった)戸塚ハリーに出会うことになった。

会場のももちパレスはちょうど一年前にも戸塚君が「寝盗られ宗介」をやったところで、またそこに帰ってきてくれたのが嬉しかった。

 

19日は通路に降りた戸塚君が割と近くを通る席だった。

10年前婚約してたのにフラれた元恋人との久しぶりの会話でショックを受けたハリーが、愕然としながら歩いていく。

大股で歩いていくハリーが通り過ぎた後、少し遅れて、ハリーの熱を残り火みたいに孕んだ風が、頬を微かに撫でて消えていった。戸塚君の熱。戸塚君の温度。静かにぢりぢりと燃える火の玉みたいだった。

19日のハリーは感情を押し殺して、冷静に、極めて冷静にいようって、心の扉をぎっちぎちに閉ざしたハリーだったけど、20日の今日は全然違った。えらく饒舌なハリーだった。昨日と同じ台詞のはずなのに、受ける印象はがらりと変わっていた。やってやるという気迫を抑えきれない感じ。同じお芝居を二回以上見るのは初めてで、しかも二日続けてで、だからかもしれないけど余計、昨日と全然違う!!って、まずそのことにびっくりした。

Defiledは二人芝居だから、基本的にずっと出ずっぱりだ。二人しかいないから、逃げようもないし、滲みようもない。演技っていう目に見えない何かでもって、一人と一人でなにかを創りあげようともがいているように見えた。二人しかいないから、どちらかの熱量が小さければ、きっと舞台は傾いて潰れてしまう。あるいは、届く到達点が低く小さい作品が出来る。戸塚君の熱と勝村さんの熱が、舞台の上でぶつかり合う光景は凄まじかった。

勝村さん演じるディッキーは、ハリーを理解しない。だってディッキーの仕事は、ハリーを理解することじゃない。この立てこもり事件を解決することで、彼にとって大事なのは仕事よりもそれ以外の現実だ。奥さんがいて、家族がいる。彼の人生の基盤はそこにある、ように思えた。喜びも悲しみも希望も、そこにある。だから彼は家族の話をたくさんハリーにする。でもハリーはそれに共感できない。理解はするけど、共感はない。だから話は平行線のままずっと進む。ハリーにはもう両親はいないし、お姉さんとはもう何年も口をきいていない。彼には、あの図書館しかない。それなのにその図書館ですら、彼の手から奪われ、魂は死んだ。図書館の、目録カード。彼にとっての神聖なもの。脈々と受け継がれてきた図書館の魂。ディッキーがハリーに、目録カード以上の希望を見せてあげられたらよかっただろうけど、結局それはかなわなかった。

最後、銃撃されたハリーは爆弾の起爆スイッチを押すけれど、作動しなくて、結局スイッチを投げ捨てた衝撃で爆弾が落ちて、それで爆発が起きるっていうのは、原始的な力の勝利を暗に提示してて、めちゃくちゃ皮肉めいていてぞくぞくした。

 

 

千秋楽のカテコの話をする。全部で五回。五分は余裕で拍手してた。

三回目か、四回目かに出てきた戸塚君は、客席をびしびし指差して、自分を指差して、拍手してみせて、にこにこ嬉しそうに笑っていた。それは、去年のSLTツアーのオーラスで声を嗄らしながら客席に向かって「みんな最高!みんなが思ってる以上にみんな最高だからなー!!」と叫んでいた、あの日の戸塚君と同じだった。あの指差しは「最高!」ってことでしょ? 戸塚くん。

最後の最後、にっこにこ笑いながら両手を万歳みたいにして、客席にふわふわふわ~って手をふってくれて、思わず「かわいい…っ」って心の声が漏れてしまうぐらい、もうその時には役者・戸塚祥太よりもアイドル戸塚祥太が出ちゃってた。

叩き続けた掌は、しばらくじんじんと熱くて、その温度はまるで、戸塚君と勝村さんの熱が乗り移ったみたいだった。

 

戸塚くんも、勝村さんも、スタッフの方もみーんな、最高。Defiled、お疲れ様でした。