平野くんの想い出

2年前の夏、EXシアター。
スタンディングの、ステージから三列目くらいのどセンター、0番の位置に、一人の女性がいた。
めちゃくちゃ仕事出来そうな、クールビューティという言葉がぴったりな人。

黒のロングヘアが印象的だったその人は、開演までの間、ずっと真顔でスマートフォンをいじっていて、絶対にこの場所を動きません!という強い意志が、その佇まいから滲み出ている気がして、なんだか少し、怖かった。その立ち位置から察するに、平野君が担当なんだろうな、とぼんやり思っていたら、案の定、暗転した後で彼女の手が握っていたのは、青色のペンライトだった。


コンサートが進んで、MCの後、平野君のソロが始まった。
その時の平野君は、たしか風磨君の「rouge」を椅子を使ってパフォーマンスしていて、私はふと気になって、あの平野担の女性を、斜め後ろからこっそり見た。

その人は、ペンライトを胸の前でぎゅっと握って、食い入るように平野君を見つめていた。まるで祈るように両手を握り締めて、平野君を少し上目遣いに見つめるその人のその横顔を見た瞬間、私は思った。


ああ、人が恋をしている瞬間を、初めて見た。

この人にとって平野紫耀とは、唯一無二、この瞬間の全て。たった一人の神様で魔法使いなんだ、と。


宝石のようにキラキラと、艶やかな光が躍る彼女の瞳のその中に、恋が棲んでいた。
その揺るがない眼差しの先に、平野君がいた。平野君だけがいた。なんて綺麗な顔なんだろう。そう思った。人は本当の好きを目の前にすると、こんな顔をするのか。こんなに美しい顔を。優しい顔を。うっとりと蕩けるように微笑んで。まるで夢のよう。綿菓子のよう。春風に舞う桜の花のよう。
平野君、あなたは、この人にこんな顔を、させるのか。ちょっと近寄り難いと感じた一人の女性を、こんなふうに綺麗にさせてしまうのか。純真無垢な顔をした、女の子にしてしまうのか。君は、すごいアイドルだ。どうしようもなくアイドルだ。

もし君が、デビュー出来ない、そんな世界があるとしたら、それはきっと、そんな世界の方が間違いだ。そんなことを思った。


あの平野担の女の子、今日のこの日も平野担でいるのかな。いてくれたらいいな。






ようこそ、新しい国のKing&Prince。
どうか君たちが、今日この日の喜びとその誇りを忘れることなく、驕ることなく、光の道を歩いて行けますように。

デビューおめでとうございます。