ただ君におめでとうって言いたかったんだ

ちょうど、先週の金曜日。5/17の朝だった。

風磨君が舞台「ハムレット」の主演をやるという一報が走った。

マジか…風磨君がハムレット……シェークスピアじゃん…すご…(呆然)

だって、今まで演じてこられた俳優さんって、錚々たるメンバーだ。普段、舞台関係に疎い私でもそれくらいわかる。

私は常々、24歳から男は変わる、魅力が加速する、って言い続けていて、ちょうど風磨君は24歳になったばかり。こいつぁやべえと、私のオタクとしての勘が言っていた。

誰もがやれるわけじゃない特別な役だ。そこに抜擢された風磨君、すごい、おめでとうって手紙書こ!そんなことを考えながら家を出た。

出たはいいものの、頭の中はハムレットの事と、そして明日に迫っていた長野公演のことでいっぱいだった。そこではたと気がついた。

 

いや、待てよ。おめでとうって直接伝えるのに、ワンチャンある。団扇だ

 

でもそこでもう一人の私が言う。

え、でも明日だよ? 材料もないし、今までろくすっぽ団扇なんて作ったことないじゃん!

 

そう、私は普段、団扇を手作りしない。極度な面倒臭がりなもんで、顔団扇だけで私が健人担なことは伝わるし、ペンラと双眼鏡で手いっぱいだし…いいか、と思っていた。

でも、こんなチャンス他にあるか?と。こんなにすごい仕事が舞い込んできて、そのことを直接コンサートでお祝い出来る機会なんて、早々ない。きっと次はない。

作らなかったらきっと後悔するやつだ、これ。

 

私は昼休みに粛々と準備を進めた。文字アプリで原稿を作り、それをセブンのネットプリントにアップロードしておいた。

退勤して即、近くの百均にチャリを飛ばした。もし、団扇の材料が売ってなかったら諦めよう、この時はまだそう思っていた。だって明日も始発近い電車で出るし、荷造りだって何も手をつけてない。その上、団扇を今から手作業で?作る?マジか?自分の事なのに半信半疑だった。

百均に駆け込む。なにせ、田舎の駅の百均だ。博多の百均ならいざ知らず、こんな田舎に団扇の材料が……? 恐る恐る覗き込んだ文房具の棚には、なんと、団扇の材料が売っていた。運命だった。

材料を買いこんで、自宅近くのセブンで文字を印刷して帰宅。コンビニでついでに買ったおにぎりを飲むように食べて、早速団扇づくりに取り掛かった。

そうは言っても、普段作らないからまあ要領を得ない。うろ覚えの作り方を、一生懸命思い出した。文字を切抜き、それをステッカーの裏面に乗せて、そこらへんに転がってたボールペンでかたどり、全部ハサミで切りぬいた。

二時間弱格闘して、出来上がったのがこちら。

 

 

翌、18日。片道6時間ほどかけて長野に到着。

会場に入ると、席は二階スタンド。すぐそこに、二階と同じ高さの外周が組まれていた。

これは、マジでワンチャンあるかもしれない。おめでとうって伝えられるかもしれない。わかんないけど、何があっても後悔しないように作ってきてよかったと思った。

 

その瞬間は、アンコールの時にきた。

長野のビッグハットはスタトロがないから、メンバーが外周をゆっくり歩いて回ってくる。

風磨君を見た。こっちにくる。ゆっくり、客席のファンの子をしっかり見ながら、歩いてくる。時々、ふにゃんって瞳を蕩けさせて笑う。

ちょうど、外周の端っこの曲がり角に来た時だった。風磨君が立ち止まった。そこが、私と風磨君の距離が、一番近くなる場所だった。

 

風磨君!って、たぶん、叫んだと思う。こういう時って、イヤモニしてるから聞こえるわけないのに、呼んじゃうのなんでなんだろ。紫にしたペンライトを振った。その瞬間に。

 

全身が、びりっとした。

それは雷が落ちるみたいな衝撃じゃなくて、全身の細胞が小さく一斉に震えるみたいな感じだった。びっくりしすぎて固まった。その数秒の間に、風磨君はするりと歩みを再開させていた。

見てくれた、ような気がした。わかんない。見てくれた!って言えないのは、本当に、その一瞬を、私は全然覚えていないのだ。その瞬間だけ、私の記憶からすこーんと抜け落ちている。ただ、あの一瞬、全身がびりっとした、あの感覚だけ、今も鮮明に思い出せる。

風磨君は、笑ってなかったと思う。すごい真顔だった気がする。私が団扇に乗せたメッセージが彼に届いたとは、到底思えないような真顔。本当に全然、見てくれたなんて一ミリも思えなかった。思えなかったんだけど。

伝わっていたらいいなあ、と思う。すごいね、おめでとう、楽しみだよって、伝わっていたらいい。それがちょっとでも、風磨君の頑張りの糧になれば、それ以上嬉しい事はない。伝わっていなくても、それはそれでいい。限界オタク、ここまでは前日にドタバタでもやれるんだって気づけたのは、経験値としてでかいんだから。

 

 

あーーーーーハムレット、めちゃくちゃ楽しみです!