こんな世界だけど、こんな世界で生きていく/わたしの2020年とDynamite

本当に、こんな世界に誰がしたんだ、と思う。
なぜこんな世界になってしまったのか。
3月以降何度も胸に去来した、暗澹としてやるせない、行き場のない悲しい気持ちは、わたしの口を、足取りを重くさせ、動けなくさせた。


年始には決まっていたSexy Zoneのツアーも、初日の延期の発表がなされ、振替公演の案内が来て、それもダメになり、感染の第一波が過ぎた頃、二度目の振り替え案内が来て、でもやっぱりそれもダメになり、オフラインでの公演は、本当に、全部、駄目になってしまった。
慣れとは恐ろしいもので、二度目の振り替え公演がポシャった時、わたしはもう以前ほどショックを受けていなかった。これがwithコロナの世界か…とどこか他人事のような気持ちでいた。たぶん、これ以上、傷つかなくていいように、そういうふうに気持ちを切り離すしか出来なかったのだと思う。

ツアーが続々と延期になり始めた春のことを、わたしは今も時折思い出す。
あの頃、みんな無理にでも笑おうとしてた。
わたしの大好きなアイドルたちは皆、必ず春が来るから、諦めないからと言ってくれて、それに呼応するようにツイッターのタイムラインも、コロナになんか負けないでわたしたちも笑っていようというような妙に前向きな雰囲気に溢れていた。
この状況が、無理矢理に希望や約束を引き剥がされ、昨日までの現実と断絶されてしまったこの現実が、つらくて悲しくて苦しくて消えてしまいたいと、吐き出すことも許されないような、あの空気。
本当に無理だった。本当に苦しかった。空元気でも明るく振る舞えない自分は、世界一ダメな人間だと思っていた。わたし以外の人はみんな強くて前を向いていて、わたしだけが冬の中に取り残されている。そんなふうに感じて、どうしようもなかった。実際にはきっとそんなことはなくて、みんな悩んだり悲しんだりして、それでも何とか前に進もうとしていただけなんだけど。それはよくわかっているんだけど。
自分に余裕がないと、全然何もかもダメで、許せなくなる。そんな自分をまた嫌いになる。


誰かに無性に会いたかったけれど、誰にも会いたくなかった。
現場がなくなり、予定されていた自担ケンティーのドラマもいつから放送が始まるのかわからないまま、新曲も無事に出るのか、見通しも立たなくて、ただ家と職場だけを無言で行き来していた緊急事態宣言の間。
わたしは本当に自分が何なのか、何の為に生きればいいのかわからない、と思っていた。
ジャニオタというアイデンティティを失った自分は、何も持っていなかった。恋人も家族も、やりたいことも、なにも、ない。くたびれ、死にそうな顔で(実際に心は半分死んでいる)途方に暮れている、アラフォーの独身女性。会える現場も次の約束もない自分は、きっと世間から見ればどうしようもなく負け組なんだろうなと思ったりもした。
それまで考えもしなかった、アイドルを追いかけていない自分という可能性を、考えることが多くなった。

こんな希望も何もない、真っ暗闇の世界でどう生きていけばいい?
昨日まで確かに手を引いてくれていたものを失って、覚束ない足取りで、必死に1日1日を進む。
それまで楽しめていたテレビの音楽番組も、どこか上の空で、オンライン配信も、本当はこれを現場で見ていたはずなのにと、悲しまなくていいのに悲しい気持ちになったりする。

このわたしは一体何なんだろう。
みんな楽しそうにしているのに。

いつからか、こんな世界で、いつ事態が終息するかもわからないこんな世界で、一緒に走りたくても走れないよと思うようになっていた。
今だから認められる。
わたしはもう、現実に負けないように、頑張ることに疲れていた。
置いていかれないように、頑張ることに疲れていた。我慢することに疲れていた。生きることに疲れていた。


そんな時にテレビの中から聞こえてきたのがDynamiteだった。

'Cause ah, ah, I'm in the stars tonight
今夜、僕は星の中にいるから

So watch me bring the fire and set the night alight
僕の火花でこの夜を明るく照らすのを見守っていて


ああ本当に、この真っ暗闇の世界を、この人たちは、この人たちなら、きらきらと輝かせてくれるのかもしれない。そう思った。理屈ではなく、本能で、そう思った。
見守っていて、という言葉が嬉しかったんだ、わたしは、本当に、嬉しかったんだよ。



すぐに映画を見に行って、最新のツアーBlu-rayを買った。
「LOVE YOURSELF」という彼らの公演を見て、そうして思った。
もう一度、わたしはわたしを愛することを始めてみよう、と。
そして、相変わらずこんな世界だけれど、こんな世界すらもほんの少しでもいい、許そうと思った。
だって、この世界はわたしが生きて、君たちもまた、生きている世界だから。


「MAP OF THE SOUL ON:E」初日。
アンコール曲RUNの後、はしゃぎ疲れたらしい7人がそれでも「すぐ次行こう!」「次!」と言って始まった「Dynamite」
ジョングクが歌い出した瞬間、涙がぶわりと溢れて、前が滲んで全然何も見えなくなった。全然、泣くような曲じゃないのにね。
アルバム曲じゃないこの曲を、やってくれるとは思ってなかったから、本当にこれ以上ない贈り物を受け取った気持ちだった。
Dynamiteは本当に、わたしにとってただの歌じゃない。本当に特別な、一生に一度出会えるかどうかの特別な一曲になっていたのだと気づかされた。


ジミンが自分の挨拶の前に、もうすでに少し声を震わせながら、ARMYのみんなが少しでも元気になれるようにと思って作った曲だったけど、逆にたくさんの愛を送ってもらった、とDynamiteのことを語った。
その後の挨拶で、とうとう堪えきれなくなって、パーカーの袖で涙をぎゅうぎゅう拭いながら「メンバーやファンのみんなと楽しい時間を共有することが、自分が一番やりたいことだったのに、全部出来なくなって、どうしてこんな目に合わなくちゃいけないのか分からなくて」と言葉を詰まらせた。
そんな彼の姿は、いつかのわたしの姿だったし、今なお大切な人に会いたくても会えなくて苦しんでいる、この世界の誰かの姿だと思った。

ああ、きっとはじめから、現実が辛くてどうしていいかわからなかったのはわたしだけじゃなかったんだ、と思えて、また勝手にジミンに救われてしまった。



世界はすぐに良くなったりしなくて、心は簡単に揺らぐし、繋いだ手もいつの間にか冷たくなる。
それでも、やっぱり生きていくんだと思った。生きていきたいと思った。笑って生きてほしいと思った。
この手を握り直して、深い夜空の中、一番強く輝く星の中に、君を探しながら。



覚えておきたいし、覚えておいてほしくて、この言葉を書いている。
たった数分の一曲が、刹那のパフォーマンスが、誰かの生き方を変えることもあるということ。
どこかで誰かの心を掬い上げることもあるということ。
覚えておいて。信じておいて。誰よりもわたしがわたしに希う。

だからわたしはいつだって、アイドルという仕事を、その生き方を、尊いと思うんだ。